小布施(おぶせ)ワイナリーとは? ブドウ栽培から取り組む自然派ワイナリーの草分け的存在

小布施(おぶせ)ワイナリーとは? ブドウ栽培から取り組む自然派ワイナリーの草分け的存在
出典 : FreeProd33 / Shutterstock.com

小布施ワイナリーは、長野県にある小規模なワイナリー。国内でもっとも高評価されるワイナリーのひとつで、製造されるワインはその人気の高さから常に入手困難となっています。ここでは、小布施ワイナリーの特徴やこだわり、人気ワインなどについて紹介します。

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小布施ワイナリーとは、日本のワイン業界に新風を巻き起こした長野県の小規模ワイナリー。特徴やワイン造りのこだわりに迫ります。

小布施ワイナリーとは

ブドウ畑

VOJTa Herout / Shutterstock.com

まずは小布施ワイナリーの特徴からみていきます。

小布施ワイナリーはブルゴーニュの小さなドメーヌのようなワイナリー

小布施ワイナリーがあるのは、長野県上高井郡小布施町(おぶせまち)という小さな町。地理的には長野県の北東にあり、観光地としても人気があります。車で訪れる際には北部の長野市と新潟県上越市を結ぶ上信越自動車道を通って、また電車の場合は長野電鉄長野線の小布施駅が利用でき、アクセスしやすいのも特徴です。

小布施町は、江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎が晩年に過ごした場所としても知られていて、町内にある、肉筆画や書簡などが展示された「北斎館」を訪れる人も。資料館やギャラリーなどの歴史的、文化的スポットを訪れるときにも、小布施町の豊かな自然に癒やされます。街には木々があふれ、散歩に適した広い公園もあり、訪れる人の憩いの場となっています。

四方を川と山に囲まれた小布施町の名物といえば「小布施栗」が有名ですが、リンゴやブドウの生産も盛んです。
気温の日較差や年間の寒暖の差が大きく、降水量は少なめながら夏に多く降る小布施町の気候は、ワインの生産に最適。数あるブドウ品種のなかでもワイン向けの品種は標高300〜500mの地域に多く分布していて、標高300〜400mの小布施町は絶好の生産環境といえるでしょう。

そんな小布施町で、ブドウの栽培からワイン造りまで一貫して取り組むのが小布施ワイナリー。フランスのブルゴーニュ地方などでは、ブドウの栽培からワインの醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して行う生産者を「ドメーヌ」と呼びますが、小布施ワイナリーは日本を代表するドメーヌとして知られています。

ブルゴーニュのブドウ畑

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ブドウの栽培から取り組む小規模ワイナリーの草分け!メルロなどの欧州系品種も自社栽培

小布施ワイナリーは、今から80年以上も前、1942年に設立されました。その前身は、さらに遡ること1867年創業の「小布施酒造」。江戸時代から続く日本酒の蔵元でしたが、戦時中に原材料の米を入手できず、日本酒造りを断念せざるを得ない状況に陥りました。代わりに着手したのが果実酒造りで、当初はリンゴや食用のブドウを使ってワインを造っていたといいます。

現在、小布施ワイナリーを継いでワイン造りに勤しんでいるのは、4代目にあたる曽我彰彦氏です。曽我氏は明治大学農学部を卒業後、大学院ワイン研究センターで修士号取得。その後、新潟県のワイナリー、カーブドッチで栽培・醸造を学びます。さらに本場で勉強するために1997年に渡仏。フランスのブルゴーニュ地方のドメーヌで2年間修業を積み、帰国後、小布施ワイナリーの栽培・醸造責任者に就任しました。

現在は、小布施町の気候風土を活かし、有機栽培や無化学農薬栽培によるブドウ栽培からワイン造りまでを一貫して行っています。手掛けるブドウ品種も多彩で、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーなどの欧州系品種も自社栽培しています。

4代目の曽我氏は近代日本ワインの父・麻井宇介氏に師事した「ウスケボーイズ」のひとり

DVD『ウスケボーイズ』カートエンターテイメントより発売中

出典:アルバトロス・フィルム公式サイト

現当主の曽我氏は、ワインラヴァーのリスペクトを集める卓越した「アルチザン(職人)」であり「ヴィニュロン(ブドウ栽培からワイン造りまでする生産者)」です。その偉業とワイン造りにかける情熱に触れるには、2018年に公開された『ウスケボーイズ』という映画を観るのが近道かもしれません。

映画『ウスケボーイズ』は、日本ワイン造りをテーマに描き、マドリード国際映画祭2018で4冠に輝いたヒューマンドラマです。原作は、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』というノンフィクション小説。日本のワイン造りを主導した醸造家・麻井宇介(あさいうすけ、本名は浅井省吾)氏の教えを受けた3人の「ウスケボーイズ」が、日本では困難といわれたワイン用のブドウ栽培から醸造までを一貫して行うワイン造りに挑む姿を描き、小学館ノンフィクション大賞を受賞しました。

映画はこのノンフィクション小説もとにしたフィクションとして描かれましたが、この3人の「ウスケボーイズ」のひとりが曽我彰彦氏です。

映画『ウスケボーイズ』では、曽我氏をはじめ、日本ワインに革新をもたらした醸造家たちの歩みを垣間見ることができます。機会があったらぜひ鑑賞してみてください。

映画『ウスケボーイズ』
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ちなみに、曽我彰彦氏の実弟・曽我貴彦氏もまた、日本ワインの新時代を切り拓いた人物で、現在は北海道余市町で注目のワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」を運営しています。
興味がある人は以下の記事も参考にしてください。

小布施ワイナリーがめざすワインとは

自社の農場でブドウを栽培

alessandro guerriero / Shutterstock.com

小布施ワイナリーはなぜ、ここまで高い評価と人気を得ているのでしょうか。徹底したワイン造りへのこだわりをみていきましょう。

小布施ワイナリーのこだわり

小布施ワイナリーは、のどかな田園風景と農村に囲まれひっそりとたたずむ小規模ワイナリー。ブルゴーニュにあるような小さなワイナリーだと曽我氏自ら宣言していますが、その実態はブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを手掛けるドメーヌで、100%再生可能エネルギー(太陽光発電)を利用しながら、自社農場産のワイン専用ブドウを100%使用していること、輸入ワインを一切混ぜない自製酒100%を守り続けていることも誇りとしています。

ワイン愛好家からの評価の高い小布施ワイナリーですが、現在はあえて、ワインコンクールへの出品は控えているといいます。海外コンクールへは10数年も前から、唯一出品し続けてきた国内最大の国産ワインコンクール(JWC)への出品も、2014年でストップ。小布施ワイナリーのワインが品薄であることを理由としていますが、品評会に出さずとも、クオリティには一切の妥協を許しません。受賞歴も宣伝せず、黙々とワインを造り続けています。

小布施ワイナリーのこだわり

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有機栽培への想いから育まれる滋味豊かなワイン

小布施ワイナリーでは、有機栽培で育てたブドウでワインを造ることを、ことさら大切に考えています。「おいしいワイン造りは、まず畑から」といった考えのもと、自社ブドウ畑産100%のワイナリー農園をめざし、開拓を続けています。小布施ワイナリーでは2005年から無化学農薬栽培を開始し、2011年以降は無化学農薬栽培の一部の畑で有機JAS認証を取得。日本で欧州系品種のブドウ畑で有機認証を得た唯一の生産者としても知られています。

おいしいワインとなるブドウを栽培するにあたって、「愛おしい気持ちから過保護になってしまう傾向がある」と曽我氏はいいます。病気にならないように、虫がつかないようにと殺虫剤などを使うと、過保護に育てられたブドウの木がメタボリックな状態になってしまうのだとか。大切なのは、薬に頼らず、また過剰に何かを足さず、冷静にブドウの木を観察して、畑ともども育てていくこと。そうした姿勢を崩さないよう強い意志を持って日夜向き合うことで、滋味豊かなワインが造られるのです。

なお、化学的な農薬や肥料を一切使わず、天然酵母で発酵させたワインを「サンシミ(Sans Chimie)」といい、小布施ワイナリーのこだわりとして根づいています。サンシミに関する考え方については、以下を参考にしてください。

小布施ワイナリー「サンシミ」

小布施ワイナリーの人気ワイン

ワイン樽と赤ワイン

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入手困難といわれる小布施ワイナリーの銘柄をいくつか紹介していきましょう。

自社畑のブドウだけを使った銘柄「ドメイヌ ソガ(Domaine Sogga)」

自社の畑で栽培しているブドウを100%使った最高品質ワインシリーズで、各地域に1店舗ほどしかない特定のワインショップのみの限定流通商品。インターネットでの販売は一切行わず、特約店でもネット販売はされず、店頭販売のみの場合がほとんどです。詳しくは、お近くの特約店(ワインショップ・販売店)で確認してみてください。

なお、生産量が少ないことから高値で転売されるケースもありますが、特約店では正規価格で販売されています。

「ドメイヌ ソガ」を販売している特約店リストはこちら

ちゃぶ台ワイン

茶碗飲み、ラッパ飲み上等、家族や仲間たちと気軽にたのしく飲んでほしいワインとして、赤字覚悟で造り続けているのが、この「ちゃぶ台ワイン」。フランスやイタリアのワイナリーで計り売りされるテーブルワインをイメージしたコスパ最強の少量生産ワインですが、小布施ワイナリー流のこだわりは生きています。

曽我氏が造る日本酒「ソガ ペール エ フィス」は入手困難な幻の日本酒

「ソガ ペール エ フィス」は、小布施ワイナリーが冬の間、畑仕事ができない間に趣味で醸している日本酒のこと。名前の「ソガ ペール エ フィス」(Sogga père et fils)は、フランス語で「父と息子」という意味で、「père」が父、「fils」が息子で「et」は「&」にあたります。ブルゴーニュ的単一種品種思想により、自社栽培の美山錦のみを使用して造られているのが特徴です。

さまざま酵母を使い分けていて、それぞれの商品名は日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」の番号のフランス語読みになっています。たとえば「きょうかい1号」を使っているものは「ソガ ペール エ フィス ヌメロアン」、「きょうかい3号」を使っているものは「ソガ ペール エ フィス ヌメロ トロワ」となります。

「ソガ ペール エ フィス」は例年1月後半ごろから順次発売されますが、特約店でも入荷と同時に品切れになるほどの人気ぶり。入手困難な「幻の日本酒」として知られており、この時期になるとSNS上では多く見かけます。

なお、小布施ワイナリーでは築100年のワイン蔵をリノベーションしたテイスティングルーム(tasting room)でワインの試飲と購入が可能です(購入できるのは1種類につき1本まで)。公式サイトでは自社ワイン農場の地図も公開しているので、機会があったらぜひ訪れてみてください。

小布施ワイナリー株式会社
公式サイトはこちら

小布施ワイナリーは、ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを行う小規模なワイナリー。無化学農薬栽培にこだわり、実際に有機認証を得るなど、信念を持ってワイン造りに取り組んでいます。気軽に手にできないからこそ、縁があったときにはじっくりと味わいたいものですね。

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